SONGS 第437回 小沢健二
~今 僕が伝えたい音楽とことば~
NHK総合 2017年10月5日(木) 午後10:50 ~ 午後11:15
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今回、
僕はSONGSの制作チームから、
「なぜ芸能界から姿を消したのか」
など、
自分の過去を語ることを頼まれた。
ちょっと考えがあって、
以下のモノローグでお答えすることにした。
題して
「三割増」
今時、
人は自分の暮らしをネットにアップする。
ソーシャル・メディアには、
すてきな食べ物の写真が並ぶ。
が、もちろん、
アップした人の生活は、
本当は写真ほどすてきではない。
友人は言う。
「今は大変ですよ。
自分を三割増しに見せるために、
高校生の男子でも、背景や小道具を選んで
自撮りしなきゃならないんですから」と。
友人は続ける。
「みんな、どこかに行ったから写真を撮った」という
フリをしていますが、
本当はそもそも写真を撮るために、
そこへ行ってるんですよ」
彼女は、いたずらっぽく笑う。
人が
自分を良く見せようとするのは、
自然。
歴史の授業では
「日本書紀には、当時の政府が
自分をよく見せるために作った、
神話が混じっている」
と教わる。
国も
人も
自分をよく見せよう
とする。
婚活サイトに並ぶ、
見栄えのいい写真やプロフィールは、
アップした人自身が作った、
神話なのだろう。
しかし、
現実は厳しい。
婚活サイトで出会った人と
カフェで待ち合わせして、
一目見た瞬間、
お互いの神話は崩れる。
そうか!
メガネをかけて、
斜め上から撮れば、
あのプロフィール写真になるのか!
確かに(悔)!
と、過去の写真の仕組みが一瞬でわかる。
現在というものには、
一瞬で、
過去のすべてを
見せる力がある。
さて、
僕がSONGSで過去を語ることを頼まれて、
「じゃあ」と
切々と過去を語ったら、
僕も婚活サイトの写真
のように、
自分をよく見せてしまう
かもしれない。
自分についての
神話を、
作ってしまうかもしれない。
斜め上から、
写真を撮るように。
しかも、
実は、
本人が語る
本人の過去なんて、
人は内心、
話半分に聞く。
だったら、
現在の自分の眼に
見えるものを、
報告したほうがいい。
その報告が、
過去の自分を説明する、
とも思っています。
神話は、
とてもおもしろいものだけど。